2017年6月、京都市役所近くの御池通り沿いにオープンした、イタリア料理店「fudo(ふうど)」。京都をはじめ、国産の食材にこだわり、和食材×イタリアンなメニューは、どれもオーナーシェフである入江哲生さんの個性的なセンスが光るものばかり。今回は、京都生まれ京都育ちの入江シェフにお話をうかがいました。

”京都イタリアン”での修行スタート

—お料理の道へ入られたきっかけは?

「僕の大学生時代、カフェブームだったんです。日本全国にカフェができはじめて、そこへ行くと“カフェ”というひとつの箱の中に、いろんな方がいはったんですね。恋人同士、家族、若い方、年配の方、もちろん1人で本を読まれてる方もいて、様々なライフスタイルがある。カフェを通して、そのカルチャーや”飲食業”というものに可能性を感じました。

カフェ文化はフランスから発祥していて、ひとつのテーブルを囲んでいろんな人がコミュニケーションをとることによって、文化や、何か新しいものが発生する。その環境が、すごくシンプルに「かっこいい!」と思ったんです。将来的にそれを提供する側にまわりたいという思いがあったんですが、その時点では、夢は夢のままでした。

大学を卒業して、企業に就職。そこで営業を4年間させてもらいましたが、ずっと自分の中でふつふつとした想いがあって。やっぱり飲食の世界に入りたいと思い、夢を叶えるために転職を決意。東山七条にある「イル・パッパラルド」という老舗のイタリア料理店でお世話になり、修業をはじめました。スタートが27才からなんで、料理人の中ではだいぶ遅い方ですね(笑)」

—もともとイタリアン志望だったのですか?

「いや、たまたま求人募集を見た時に「アットホームです」って書いてあって(笑)
入ると確かにアットホームでしたけど、仕事に対してはめちゃめちゃ厳しかったです。でも今となっては、それが良かったなと思ってます。

僕の居た「イル・パッパラルド」は、「イル・ギオットーネ」の笹島シェフが以前居られた店で。笹島シェフは”もしイタリアに京都という州があったら”というコンセプトでお店をやられ、今や”京都イタリアン”を代表するシェフのお一人。なので、「イル・パッパラルド」にもその雰囲気は引き継がれ、僕は何も知らない状態で入ったイタリアンの世界が、既に“京都イタリアン”だったんです。

僕の師匠であるシェフにも「これ、イタリアンと思ったらあかんで」と言われましたね。
実際、日々の修業でも、お料理のベースに昆布出汁や、しょうゆなど和の調味料をけっこう駆使して作るイタリア料理だったので、自然とそれが今への礎になっていると思います。」

「fudo」と「風土」、そこに込めた想い

-修業時代から既に“和DEミックス”なイタリア料理を作られていたんですね。
その後独立された訳ですが、「fudo」はどんな想いでオープンされたのですか?

「自分の城を持つという目標があったのと、10年来やっていくうちに、飲食店のさらなる可能性にチャレンジしてみたくなったからです。
“自分で店を持つ”ということは起業する訳で、会社を立ち上げる時「飲食店はコミュニケーションスペースであることが第一」だと僕は思ったんです。

自分の料理は、お客様同士がコミュニケーションをとっていただくためのツールのようなもの。なので、まず企業のコンセプトとして『地域のコミュニケーションスペースの創造』ということを掲げ、店をオープンしました。

僕がお料理に使う野菜、魚、肉などの食材は、基本的にすべて日本のもの。もちろんトリュフなど一部は輸入食材も使いますが、基本的なベースとなる生鮮食品は日本の風に吹かれ、日本の土で育ったものなので、そこから自然と「日本のイタリア料理を表現しよう」という想いに至りました。なので、店名も「風土」の「fudo」。シンプルで、お客様にも分かりやすいかなと思います。」

—“日本のイタリアンを表現する”食材選びはどのようにされているんですか?

「僕は “何をする”というよりも“誰とする”ということを考え、いつも行動を起こします。今使っている食材も、自分が信用できる方が作られたものを中心に使っています。例えば僕の地元である城陽市や宇治市のものなど、自分がよく知っている土地・人の食材を使わせていただくということをベースにしています。

もちろん自分から生産者の方にお会いしに行ったり、逆に先方からご紹介いただいたりすることもありますし、時には近所のお店や百貨店に行って探すこともありますし、その辺はあまり自分でルールを決めないんです。ルールを決めると、ルールにしばられてしまうんで。それだけは僕、親にも言われたんですけど、ちっちゃい頃から苦手なんですよ(笑)」

料理は「理にかなう」ように

ネーミングにもセンスが!
「ポテサバ 九条ネギのソースとアリオリソース」

—シェフの和DEミックスなレシピは、どれも個性的ですが、アイディアはどこから?

「うちはイタリア料理屋として名を売ってるんで、ベースとしてはイタリア料理を前提に、そこに日本の野菜と合った調理法を考えます。例えるなら輪郭はイタリア料理、その中に和の要素を入れていくという感じでしょうか。

ネーミングにもセンスが!
「ポテサバ 九条ネギのソースとアリオリソース」

お料理を作る時は、必ず理にかなったことをするように心がけています。
僕、新人の時にシェフからめっちゃ言われたんですよ。
「料理ってどんな漢字を書くか知ってるか?理(ことわり)を料(はかる)ものやから、絶対に理にかなったことをしなさい」と。

理(ことわり)は、物事の筋道を立てて考えること。料(はかる)は、字のごとくはかることなので、例えばお米をと水をはかり、火加減を考えて炊く(料理)することで、おいしいご飯になる。シェフのその言葉には、今でも本当に感謝しています。

インパクトある盛り付けにも注目、「鮎のコンフィと丸茄子の鮎魚醤バター焼き セルバチコルーコラのソース」

うちのお料理でいえば、「鮎のコンフィと丸茄子の鮎魚醤バター焼き セルバチコルーコラのソース」。ルッコラのソースを敷いた上に、鮎の魚醤とバターで焼いた丸茄子、その上に鮎のコンフィ乗せます。鮎の魚醤と鮎のコンフィ、鮎の苦味とルッコラの苦味など、そういう共通項を持たせることで理にかなうよう考えて作った一皿です。

魚醤もそうですけど、しょうゆをはじめ、味噌や鰹節など、日本の発酵食品はほんまにスゴイと思います。ヤマサさんの商品では「鮮度の一滴プレミアムしょうゆ」がいいですね。一味なめて、これだけで味がきまると思いました。

インパクトある盛り付けにも注目、「鮎のコンフィと丸茄子の鮎魚醤バター焼き セルバチコルーコラのソース」

料理を通じてリアルなコミュニケーションを

—シェフのお料理は面白くて意外性があるけど、ちゃんとおいしい。それを両立させるのは、なかなか難しいのではと思いますが。

「やっぱり料理は、おいしくないと意味が無いんで(笑)面白いだけで終わってたら、それは違うと思うんです。

よくスタッフにも「シェフ、これやりすぎちゃいますか?」とか、「これはちょっと奇抜過ぎませんか」って言われるんですけど、自分の中では、こうしなきゃいけないとか、常識にとらわれたくないという想いはあります。もちろん、奇抜であればあるほどいいという訳ではなくて、そこはバランス感覚が大切なんですけど。

おいしくて、個性的、エンターテイメント性のあるお料理。
エンターテイメント性は、コミュニケーションをとるためのツールなんで、それを話のタネにして、お客さん同士でのコミュニケーションが広がったら、僕としては最高ですよね。

話題が盛り上がること間違いなし!
「クーベルチョコ 京鴨レバーペースト 焼き八つ橋」
話題が盛り上がること間違いなし!
「クーベルチョコ 京鴨レバーペースト 焼き八つ橋」

お客様がうちの店で食事する時間が2時間やったとしたら、その食事に使う時間と金額で他になにができるかって、僕は考えるんです。例えば、劇を観たり、コンサートに聴きにいったりできますよね。それと同じ、ないしはそれ以上の価値観をこの店でだしていきましょう、という話しをスタッフにもよくします。

お金の価値って人それぞれですけど、お客様はただ単にお腹膨らましにきてる訳じゃない、楽しみたいから、幸せな気持ちになりたいから、人生を豊かにしたいから来てくださってる。なので、それに全力で応えたいという想いで店をやっています。」

—そんな入江シェフの、これからの夢は?

「最初にお話しした『コミュニケーションスペースの創造』という観点から、地域地域にいろんなお店をもっと作りたいという想いがあります。
デジタルなコミュニケーションではなく、リアルなコミュニケーションを創造していく場を僕のお料理を通じて作っていけたらな、という想いは常に持っています。

後は、仲間を増やしていくこと。
自分と一緒に、そういう想いを共有してくれる仲間を増やして、やっていけたらなと。夢というよりは目標、というよりやっていかなあかんことだなと思っています。

予定調和でなく、ここでこんな店作ったら、どんな人が来て、どんな事が起こるんやろって。そう考えるとほんまに楽しいです!」

「END」

日本のイタリア料理屋
fudo(ふうど)
オーナーシェフ
入江 哲生 さん

1980年生まれ、京都府出身。イタリア料理店「イル・パッパラルド」で経験を積んだ後、
「イルフィーコ」料理長を経て、2017年に独立し「fudo」を開店。

【レストランDATA】
京都府京都市中京区御池大東町590 加納ビルB1F
tel. 075-253-6290
営業時間/17:00~翌1:00
定休日/火曜